個人の開業費の任意償却
税理士 柏樹 正一のコラム(第54回)
個人の減価償却資産の償却費は、使用期間に応じて、決まった金額が自動的・強制的に必要経費に算入されますので、強制償却といわれています。
一方、支出の効果が1年以上に及ぶ繰延資産の中で、開業費(個人が開業準備のために特別に支出する費用)の償却費は、60か月の均等償却又は任意償却のいずれかの方法により必要経費に算入されます。
任意償却は、繰延資産の額の範囲内の金額を償却費として必要経費に算入することを認めるもので、その下限は設けられていませんので、支出した年に全額償却してもよく、全く償却しなくてもよいとされています。
個人の減価償却資産の償却費の計算が強制的であることから、繰延資産の償却費の計算は60か月の均等償却又は60か月以内の任意償却と思われている方もいるのではないでしょうか?
これについては、60か月を経過した場合に償却費を必要経費に算入することができないとする特段の規定がありませんので、繰延資産の未償却残高は60か月経過後であっても、償却費として任意に必要経費に算入することができます。
したがって、例えば、多額の開業費を支出し、開業当初、軌道に乗るまで数年間収支が赤字であるような場合には、60か月経過後であっても、未償却残高を償却費として必要経費に算入することができます。