個人事業当時からの使用人に対する退職金
税理士 柏樹 正一のコラム(第53回)
個人事業を引き継いで設立された法人が、個人事業当時から引き続き在職する使用人の退職に伴い退職金を支給した場合、一般的にその退職金には個人時代と法人設立後の両方の勤務の期間に対応する分が含まれていると考えられるため、原則として個人時代の勤務に対応する部分の金額は法人の損金には算入されず、個人事業の最終年分の必要経費になります。
しかし、その退職が法人設立後、相当の期間を経過した後である場合には、その支給した退職金の全額を法人の損金に算入できるとされています。
この場合、「相当の期間経過後」とは、使用人の退職金ついては、個人又は法人のいずれかの段階において必要経費なり損金に算入される機会が与えられるべきであるとの考えから、更正の請求ができる期間との関係上、法人設立後5年ないし6年程度ともいわれています。
なお、個人事業主が法人設立に際し、引き続き在職する使用人に係る個人事業当時の退職金相当額を新設法人に支払った場合には、個人事業に退職給与規程等があり、退職給与の要支給額の計算が適正に行われているときには、必要経費に算入することができるとされています。この場合、受け入れた新設法人は預り金処理することになります。
また、退職所得の退職所得控除の計算基礎となる勤続年数について、新設法人の退職給与規程等に個人事業当時からの期間を含めた勤続期間を基礎として退職金を計算する旨が定められ、それに従って計算した退職金を支払った場合には、原則として、個人事業当時の勤続期間を含めて勤続年数を計算することができるとされています。
ただし、青色事業専従者であった者については、個人当時の退職金を必要経費に算入できませんので、勤続年数の通算もできません。