100年企業をめざす「事業の承継」(第88回・最終回)
89.属人的株式の活用方法を教えてください。
POINT
1 ► 属人的株式の活用の仕方 |
2 ► 属人的定めのある、議決権に関する株式 |
◎ ———— 属人的株式の活用の仕方
属人的株式とは、特定の株主に対して、剰余金の配当や残余財産の分配、議決権について株主ごとに取り扱いが違う株式です。
例えば、通常は1株に対して1議決権ですが、経営者のもつ株式は1株に対して10議決権とすることも可能です。
「A株主には、配当や議決権等は○○」「B株主には、配当や議決権は△△」など、特定の株主の持株数に関係なく、剰余金の配当や残余財産の分配、議決権を定めることができます。
会社法において普通決議の場合に、株主総会の過半数により議決が成立します。
特別決議で決定する重要な事項では、3分の2以上の要件が必要となる事項もあります。
議決権の割合をコントロールすることで、円滑な業務執行や事業承継、経営承継が可能となり企業活動に大きなメリットとなります。
◎ ———— 属人的定めのある、議決権に関する株式
属人的株式には、議決権に関する次の3つの株式があります。
① VIP株
VIP株(Very Important Person Stock)とは、特定の株主が持っている株式に、特別 な権利を付けた株式です。VIP株は、特定の地位にある場合に効力を持ちます。 株式が相続や遺贈などで譲渡された場合でも、その特別な権利まではその人に引き継がれません。
例えば、定款で「代表取締役」が持つ株式は、1株に対して10議決権あると定めます。「代表取締役」の地位の間は、1株に対して10議決権を有しますが、「代表取締役」の地位を離れた時には、元の議決権に戻ります。そして、次に「代表取締役」の地位に就任した株主が所有する株式は、1株に対して10議決権を有することになります。
② 比重株
比重株とは、特定の株式について議決権が異なる株式です。VIP株との違いは、地位だけではなく、特定の株式を所有する人に特別の権利を付与することになります。 株式自体に特別な権利がありますので、人に譲渡された場合は、その特別な権利も一緒に移転します。
例えば、定款で特定の△△株式を有する株主は、1株に対して10議決権を有すると定めます。この△△株式の比重株を、相続や遺贈などで譲渡された場合でも、そのまま1株につき10個の議決権を引き継ぐことになります。
しかし、以前から持っている比重株以外の株式は、1株につき1個の議決権を持つ普通株式のままです。
③ ヒーロー株
ヒーロー株とは、特定の事態が生じた場合に、議決権が激増することを定めた株式です。
VIP株との違いは、通常は一般の株式です。しかし、特定の事態が生じた場合に、その事態を乗り切るために出現する、ヒーロー的存在の株式です。
例えば、ほとんどの株式を保有する経営者が病気で倒れた場合に、株主総会を開催することが不可能となります。その時に、誰に経営を任せるのか重要になります。専務に任せるとした場合は、経営者が復帰するまで一時的に、専務のもつ株式の議決権が増加し、経営者が復帰しその特定の事態が終息した時に、元の議決権に戻ります。
ヒーロー株は「特定の事態」という条件付で、議決権が増減します。
この属人的種類株式の特性を活用すれば、わずかな費用でトラブルを事前に防止できます。計画的に準備し実行することで、事業承継を円滑に行うことが可能となるでしょう。
最後に・・・
2013.01.01 よりスタートした 連載コラム 100年企業をめざす「事業の承継」 も
今回(第88回)で最終回となりました。最後まで、お読みいただき感謝申し上げます。
事業承継の目的は、経営者が交替しても企業の永続的な繁栄を実現することです。
自身の引退を考え始めている多くの経営者は、主に次のような悩みを抱えています。
◎具体的に何から着手したらいいのか分からない
◎後継者がいない
◎他の相続人との分配方法に悩んでいる
◎事業承継かM&Aがよいのか迷う
◎セミナーに参加しても大枠過ぎてピンと来ない
これらの理由と日々の仕事に追われ、事業承継の準備をしなければ・・と意識はしていても、後回しにしている場合が多いようです。
事業承継にはある程度の期間が必要です。
早期に計画を立て早めに着手することで、選択肢も増え有利に進めることができます。
このコラムをきっかけとして、事業承継に取り組む原動力となり
円満な事業承継が実現できることを願っています。
税理士法人 中野会計事務所
代表社員 中 野 幸 一