100年企業をめざす「事業の承継」(第72回)
73.役員退職金を活用すると、どんな効果がありますか?
POINT
1 ► 役員退職金の効果 |
2 ► 役員退職金の算定方法 |
3 ► 役員退職金の税負担 |
◎ ———— 役員退職金の効果
中小企業の事業承継には、役員退職金が有効に活用できます。現経営者が退任し、役員退職金を
支出することで、次の効果が期待できます。
① 経営者の勤続年数が長い場合に、多額の役員退職金を法人の損金として認められる
② 内部留保の多い企業の場合に、役員退職金の支給で内部留保が減少する
③ 企業の自社株評価が低下し、自社株式を売買、または贈与により後継者への移転が容易になる
④ 相続対策になる
事業承継の対策として、役員退職金はどのくらい支給できるのか、どのように準備していくのか検討します。検討手段の一つとして、会社は保険などの金融商品を活用し、時間をかけて役員退職金の準備をすることができます。
◎ ———— 役員退職金の算定方法
役員退職金の算定は、次の方法があります。
① 平均功績倍率法
一般的には、この平均功績倍率法を活用しているようです。この場合、功績倍率をどの
くらいにするのか、企業の資産内容や役員退職金規定の有無、その役員の業績など多角的
な検討が必要です。
② 最高値功績倍率法
功績倍率を、比較法人の平均的な功績倍率に代えて、比較法人の最高値の功績倍率を適用
する方法です。
③ 1年当たりの平均額法
自社と類似する法人を、数社選定します。選定した法人の、平均的な1年当たり退職金額
を基に、適正な退職金額を求める方法です。この方法は、経営者が後継者へ事業承継した
後も、数年の間会長職など非常勤取締役として報酬を受け、次に該当する場合に採用され
るケースが多いでしょう。
●退職時に非常勤となっており、報酬月額が、現役時代に比べて減少している場合
●退職時の報酬月額そのものが、その役員の在職期間中の職務内容等からみて、著しく
低額である場合
◎ ———— 役員退職金の税負担
●退職する経営者の税負担
退職金の所得税は、在職期間比例非課税となります。在職期間に応じ、退職所得控除額が
変わります。
【退職所得控除額】
勤続年数20年以下 : 40万円 × 勤続年数
勤続年数20年超 : 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)
また、分離課税で他の所得と合算することなく、退職所得のみで累進税率を適用します。
そのため、他の所得がある場合でも負担が少なく支給することが可能です。
【税額の計算】
◎ 不動産所得、給与所得、配当所得などの総合所得合算額 × 累進税率
◎ 退職所得(退職金額 - 退職所得控除額) × 1/2 × 累進税率
●退職金を支払う法人の税負担
退職金を支払う場合には、経営者が退任する場合か、分掌変更によりその地位や職務の
内容が大幅に変わり、実質的に退職したと同様の事実であることが認められる事が必要
です。形式基準として、次が挙げられます。
◎ 常勤役員が非常勤役員になった場合
◎ 取締役が監査役になった場合
◎ 分掌変更後の報酬が激減した場合(概ね50%以上の減少)
支払った退職金として適正な額のものは、損金の額に算入されます。しかし、経営者の退任が形式的なもので、実質の経営権は握ったままなど、退任前と状況が変わっていない場合は、退任の事実がないものとして、役員退職金が法人の損金と認められなくなってしまいます。
注意点として、次が挙げられます。
① 役員退職金の支出が、定款や株主総会及び取締役会の決議に基づいている
② 具体的に役員退職金を支給することが確定した日、又は実際に支給した日を含む
事業年度において損金経理している
③ 役員退職金の額が、在任期間や退職に至った事情、比較法人の役員退職金の支給
状況などに照らして不相当に高い金額でないこと
④ 退任後は、完全退任もしくは、代表権のない会長などに就任。役員報酬の額は、
概ね退任直前の報酬金額の50%以下
次回タイトル
【相続した自社株式を自社に譲渡した時の特例ってなんですか?】
H28.2.15 更新予定です。 どうぞお楽しみに!!