中野会計事務所トップページ >> スタッフブログ >> 年次有給休暇使用による皆勤手当の減額
投稿者:青木 崇典
|2020年11月11日(水)
給与計算業務をさせていただいておりますと、お客様より「年次有給休暇を使用した労働者に対して皆勤手当を減額することは可能でしょうか?」という質問をいただくことがあります。
労働基準法136条では「使用者は労働基準法で定める有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取り扱いをしないようにしなければならない。」と努力規定を定めています。何となく皆勤手当の減額はルール違反な感じがいたします。
ところが、年次有給休暇(以下「年休」とします。)使用による皆勤手当の減額が有効となった判例や裁判例がいくつかありますので、平成5年6月25日の最高裁判例(沼津交通事件)を参考に考えたいと思います。
■裁判の概要
タクシー会社の労働者が、勤務予定表作成後、年休を使用した場合に、皆勤手当を減額または不支給とされていたため、この未払分を支払うよう会社を訴えたものです。(減額された皆勤手当の額は月額最大で給与月額の1.85%)
これについて、会社が年休を使用した労働者に対し皆勤手当を減額等していた理由は、「タクシー会社において、自動車の稼働率が売り上げに直結すること。勤務予定表作成後に欠員者が出ると代替要員の手配が困難なこと。以上の理由により完全勤務を奨励するため。」でした。
この裁判では、労働基準法136条のルール(「使用者は有給休暇を使用した労働者に対して不利益な取扱いをしないようにしなければならない。」)に反し、ひいては、民法に定める「公の秩序」に反するのではないか?という点が主な問題となりました。
判決の内容は、『労働基準法136条は会社側の努力義務(法律上の効力を有しない)であること。また、会社が皆勤手当を減額していた理由は、自動車の稼働率が低下するという事態を回避するためであり、年休の使用を抑制する趣旨ではないこと。そして、減額された皆勤手当は最大でも給与月額の1.85%に過ぎず、労働者の受ける経済的な不利益の程度は大きいとはいえないこと。以上より、年休を保障した法の趣旨から望ましいとはいえないが、公の秩序に反するとはいえるものではなく、当該皆勤手当減額は有効。』とされました。
この裁判で用いられた判断基準は「皆勤手当を減額する趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、年休に対する事実上の抑止力の強弱などを考慮して、年休の使用を抑制し、労働基準法が労働者に年休を保障した趣旨を実質的に失わせる場合には、公の秩序に反し違法。」というものです。言い換えますと「皆勤手当減額の目的が、年休取得の抑制ではなく、合理的な理由があり、かつ、減額が小さければ適法。」になるかと思います。
この判断基準に、自社の具体的な事実をあてはめて検討を行うことができるかもしれません。(判決の内容は消極的に有効としておりますので、皆勤手当の減額等は慎重な判断が必要になります。)
注:年休の取得方法、給料の計算方法については、就業規則等に規定することが必要となります。
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